※本記事はアフィリエイト広告を含みます。
好井まさおの怪談を浴びる会に、パンサー尾形がたびたび登場している。心霊ロケの話も出るのだが、正直そこはメインディッシュではない。この人の本領は、宮城・東松島で過ごした幼少期に、えぞっこという親友と体験したという「不思議な話」のほうにある。
巨大なクマンバチ。人間を丸呑みする青大将。そして──乗れるオニヤンマ。
尾形はこれを、笑わせにいく気配ゼロで、汗をかきながら、興奮まじりに、大真面目に語る。そして聞き手の好井まさおは、絶対に「嘘だろ」と言わない。この二人の関係性ごと味わうのが正しい楽しみ方だと思う。
えぞっこという存在
まず前提として、えぞっこの紹介がいる。本名は動画内で明かされているが、一般の方なのでここでは通称のえぞっこで通す。尾形いわく「超野生児」。あの川に何が泳いでいる、あの沼にザリガニがいる、を全部把握していて、しかも誰も知らないような沼まで知っている。要するに、地元の生態系のインデックスが頭に入っている子どもだ。
えぞっこに誘われると、行ったことのない場所に連れて行ってもらえる。だから尾形にとって、えぞっこと遊ぶ日は冒険だった。ここまでは、田舎で育った人ならわりと共感できる話だと思う。
問題は、その冒険の中身である。
ちなみにえぞっこは実在していて、現在は電気工事の仕事をしているらしい。過去にテレビ番組が本人に突撃取材したこともあり、蜂の話については「ありますよ」と認めたそうだ。ここが、この一連の話のいちばん厄介で、いちばん愛おしいところだ。
エピソード1:クマンバチを素手で掴んで地面に埋まる
ある日、えぞっこが「すごい蜂がいる」と言う。山を20分ほど登ると草原がひらけていて、花が咲き乱れている。そこに、尾形が両手で示すサイズ(本人の身振りでバレーボールくらいある)のクマンバチが飛んでいる。全身が毛で、黒と黄色で、羽音はドローンみたいだという。
えぞっこはノーリアクション。見慣れているからだ。そして靴を脱いで手にはめ、その蜂を掴む。
すると、羽ばたきの振動が凄まじく、えぞっこの体がドリルのようにどんどん地面に埋まっていく。膝どころではない。尾形は「えぞっこ、もういいや」と叫ぶが、えぞっこは後日「あれが楽しいんだ」と語ったという。
ここで大事なのは、尾形が「これが楽しいんだって」と伝えるときの、心底わけがわからないという顔である。体験者本人も、えぞっこのことは最後まで理解していない。
エピソード2:オニヤンマに乗って地元上空を飛ぶ(最高傑作)
これが白眉。3話目にして完全に別ジャンルへ突入する。
別の日、宮戸島の方角の草原へ。えぞっこが根っこのついた長い草をぐるぐる回すと、ドローンのような羽音とともに、黄色と黒の巨大なオニヤンマが飛来する。顔が人間の顔ほど、胴体があって、尻尾がとにかく長い。
えぞっこは草を止め、ホバリングしているオニヤンマの尻尾を掴む。そのまま宙に浮く。そして尾形に「来い」と言う。
ここからのディテールが異常に細かい。
- 尾形は最初、尻尾のいちばん端を掴んでしまう。重量に耐えられず尻尾がしなって落下。えぞっこ大爆笑(「これ、オニヤンマあるあるなんだろうね」と尾形は言う。あるあるではない)
- 二度目は胴体寄りを掴んで成功。しかしその瞬間、えぞっこだけが降りる
- 離陸。えぞっこがどんどん小さくなり、マンション15階から見下ろすくらいのサイズに
- 風で体が後方へ流されるので、必死に尻尾を握り込む。するとぬるぬるした液体が出てくる
- やがて先端から丸いものがポーン、ポーンと落ちていく。卵である。握りすぎて空中で産卵させてしまっている
- 眼下には地元の漁港。漁師さんも船も見える
- 気づけば自宅の真上。町長の孫である尾形の家には池があり、その岩場にソフトに降ろされる。優しい
- オニヤンマはそのまま池に20個ほど産卵していく
- 飛び去る前、こちらを向いて会釈する
そして1ヶ月後。池を見に行くと、飼っていた錦鯉16匹が全部いなくなっていた。ヤゴが食べたのだろう、と尾形は考えている。すると、また羽音。あの個体が戻ってきて、こちらを向いて止まり、もう一度会釈して去っていったという。
極めつけは、小学3年生の写生の時間。尾形はオニヤンマの上から見た町の風景を描いた。あまりに構図が高すぎるので、先生に「ヘリコプター乗ったの?」と聞かれ、「いや、オニヤンマだよ」と答えたそうだ。
エピソード3:青大将に丸呑みされ、小便で吐き出される
湿地帯で、えぞっこが「すごい青大将がいる」と言う。行ってみると、太さが人間の顔ほどある緑の大蛇がとぐろを巻いている。えぞっこは「あれ、でけえよな」くらいのテンション。
「たっか、行ってみな」と言われ、尾形が近づく。3歩目で、ペロッといかれる。
中の描写がまた妙に具体的で、赤地に黒い丸模様、スイカの種のような見た目で、全体がネバネバしている。奥には鹿らしき骨が2つ転がっている。奥へ流し込まれそうになるのを必死に押さえながら、恐怖のあまり小便を漏らす。すると「ガラガラペッ」と吐き出された。
外ではえぞっこが大爆笑している。「お前もか」という顔で。えぞっこは何度も尾形を食わせようとしていたらしい。ノリで。
親に報告したら「そうなんだね」で終わったというオチも良い。
この話も、エピソード1と同じ「水ダウのドッキリ回」で語られている。
エピソード4:タンタントンネルから赤鬼が来る
これは幼稚園の年長のとき。ジャンルとしては、いちばん怪談に近い。
冬、こたつの中で飼い犬のマルチーズ「タンタン」と過ごしていた。タンタンがこたつから出ていくと、布団がめくれてトンネル状の隙間ができる。尾形はそれを「タンタントンネル」と呼んでいた。
そのトンネルから、小さな赤鬼が入ってくる。真っ赤で、虎のパンツを履いていて、角があり、足の裏まで赤い。筋肉はバキバキ。こん棒を引きずっている。めちゃくちゃ怒った顔で、尾形をガン見しながら、周りを2周して出ていった。
色の説明が絶妙で、「中華料理屋のチャーシューの赤」だという。じわっとした赤ではなく、すがすがしくもない、真っ赤。
怖くなっていたところに姉が帰宅。話すと、姉は青鬼のほうを何度も見ていると言う。しかも同じくタンタントンネル経由で。
このエピソードには視聴者からも「私も見た」というコメントやDMが大量に届いたそうで、尾形は「地域性があると思う」と言っている。赤と青という色の分かれ方についても、「絵本で赤鬼と青鬼と決まっているのは、昔の人が本当に見たからじゃないか」と考察していて、ここは普通に民俗学的におもしろい。
好井まさおが「嘘だろ」と言わないのが、この企画の背骨
怪談を浴びる会のチャンネルには「揚げ足を取らない、信じきる」という理念があるらしく、好井は一度も否定しない。それどころか、「もう1回やってください、どれぐらいですか?」とサイズを再現させ、「画角に収まる感じでやってください」と技術的な注文までする。
これが本当に正しい。ここで「いやそれは無理でしょ」と言うのは、野暮以外の何物でもない。
実際、好井は過去に尾形の鬼の話へツッコミを入れて視聴者に叱られたと自ら明かしている。「あの人はパンツも履いてるんだから」というツッコミが「尾形さんを馬鹿にしているのか」と受け取られた、と。この、チャンネルの理念が視聴者側から運用されている感じもおもしろい。
同郷・同級生の丸山ゴンザレスがゲストで来た回では、専門家的な立場から「オニヤンマ自体はめちゃくちゃいる」と前置きしつつ、年齢やインパクトによって体感サイズが実物とずれて記憶されることはある、と穏やかに着地させていた。この距離の取り方も上手い。
ちなみに丸山ゴンザレスは考古学出身の犯罪ジャーナリストで、世界の危険地帯を歩き回っている人だ。この人が「オニヤンマはめちゃくちゃいますよ」と言うと、妙な説得力がある。
で、これは何なのか
個人的な見立てを書いておく。
尾形さんのこのエピソード群、たぶん夢だと思う。
根拠は、まさに「ディテールが変に詳しい」ところだ。
夢の記憶というのは、全体の因果はめちゃくちゃなのに、部分の質感だけが妙に鮮明に残る。尻尾のぬるぬる。卵が落ちていく感触。蛇の中の赤と黒。チャーシューの赤。足の裏まで赤かったこと。どれも「体験の要約」ではなく「感覚の断片」で、そしてその断片同士をつなぐ論理が完全に欠けている。なぜトンボは会釈するのか。なぜえぞっこは自分だけ降りるのか。夢はこういう構造をしている。
しかも尾形本人が、いちばん誠実なことを言っている。小さかったから体感サイズは自信がない、記憶が改ざんされているかもしれない、真ん中に乗ったか後ろだったかは曖昧だ、と。嘘つきはこういう留保をつけない。本人は完全に本当のこととして記憶している。だからこそ面白い。
そして、それでも笑ってしまうのは、いくらなんでもトンボに乗るのはありえなさすぎるからだ。クマンバチがデカい、蛇がデカい、まではまだ「体感サイズのバグ」で説明がつく。乗った瞬間に、説明可能性が完全に崩壊する。この越え方が、たまらない。
ただし、現実の尾形はもっとおかしい
ややこしいのは、大人になってからの尾形の実話が、幼少期の話と大差ない密度で異常なことだ。
- 南アフリカで、首輪なしのライオンと50m並んで歩くロケ。注意事項(目を合わせるな・太い枝を踏むな・背中を見せるな)を開始10mで3つとも破り、穴に落ちてかわして助かる
- 広島でワニを飼っている家に、パジャマで泊まりに行くロケ。3mのワニが口枷なしでこたつに入っている。夜はフルフェースのヘルメットで一睡もできず、ワニは布団に入ってくる
- アメリカで金太郎の格好をしてグリズリーと相撲を取るロケ。3日前に中止。理由は、そのクマが飼い主を食い殺したから
- マカオタワーのさらに上、地上300mの電柱のてっぺんで、パジャマから制服に着替える仕事
- 水曜日のダウンタウンの落とし穴に7時間。全裸になって服をロープ代わりにして脱出を試みる。虫が尻から入ってこようとする
- 廃墟の寺の地下道400m。最奥の水子堂に、古い面が50個と風車が並んでおり、風がないのに1つだけ回っていた
本人は「ご先祖様に守られている」と言い、毎朝手を合わせているという。何度も死にかけて、そのたびに落ちた先だけ草だった、飛び込んだ先の岩をわずかに逸れた、という話が続く。
ここまで来ると、幼少期のオニヤンマだけを「夢でしょ」と切り分けるのが、だんだん傲慢な気がしてくる。この人の人生、そもそも縮尺がおかしいのだ。
まとめ:野暮にならない、という作法
この一連の動画がなぜ面白いかというと、語り手が本気で、聞き手が絶対に否定せず、視聴者もまた「私も見ました」と参加してくるからだ。真偽の判定は、この場では一度も要求されない。
だから、こちらも判定をしない。夢だと思う、と書いたけれど、それはこの話の価値をまったく損なわない。むしろ、人間の記憶がここまで豊かに壊れうるということのほうが、トンボに乗るより不思議だと思う。
まだ観ていない人は、オニヤンマ回から入るのがおすすめです。
チャンネルは書籍にもなっている。動画で観た話を文字で読み返すと、また別の怖さがある。
参考動画
- 【パンサー尾形・丸山ゴンザレス】同郷の2人が東北で起きた不思議実体験を語り尽くす!(オニヤンマ回)
- 【パンサー尾形】水ダウのドッキリで7時間落とし穴の中に!(クマンバチ・青大将回)
- 【パンサー尾形】恐ろし過ぎると何故か笑えるとんでもない恐怖の仕事(ワニ・赤鬼回)
- 【パンサー尾形】廃墟と化した寺でロケ中に起きた心霊現象(水子堂・ライオン回)


コメント