ジョーカー2【ネタバレあり】『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』映画レビュー:期待と現実の狭間で

映画

2019年に世界中で社会現象を巻き起こした『ジョーカー』の続編、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を観てきました。前作の衝撃的な展開と社会への影響を踏まえ、今作はどのような物語を紡ぐのか。ネタバレ情報を見ないで、期待と不安が入り混じる中、劇場に足を運びました。

あと、予告編で本編に使われていないシーンがあったことが少し話題になっています笑。

このシーンあったような気がするけどなぁ。マンデラエフェクトか?

前作を知らずには楽しめない続編

まず強調しておきたいのは、この映画を十分に楽しむためには、前作『ジョーカー』を見ていることがほぼ必須だということです。本作は前作の直接の続編であり、前作で引き起こされた事件の裁判に焦点が当てられています。アーサー・フレック/ジョーカー(ホアキン・フェニックス)の物語がどのように展開していくのか、前作を知らずには理解が難しいでしょう。

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前作の暴力的で社会批判的な要素が強かった印象とは打って変わり、今作では意外にも恋愛映画的な側面が加わっています。ヒロインとして登場するハーレイ・クイン役のレディー・ガガとアーサーの関係性に焦点が当てられ、二人の恋愛模様が描かれます。この展開は、前作のファンにとっては意外な方向性かもしれません。

印象的なシーンなど

映画全体を通じて、タバコの存在感が際立っています。前作に引き続き、アーサーはもちろん、登場人物たちは驚くほど頻繁にタバコを吸います。現代の目線からすると、病院の中でも、裁判中でさえも灰皿が用意されているシーンは衝撃的です。これは単なる演出ではなく、かつてのアメリカ社会の一面を如実に示しているのでしょう。アメリカだけでなく、昭和の日本でも今では考えられなくらい喫煙可能な場所が多かったと思います。以前に水曜日のダウンタウンでも取り上げられていたことを思い出しました。

一番好きなのは、アーサーがイナバウアーのように背中を反らせてタバコの煙を吐く姿。この美しくも不穏な映像は、作品全体の雰囲気を象徴しているようで印象に残りました。前作でもイナバウアーをやっていたところが個人的には激アツでした。また、今回は実際にタバコの火が事件を引き起こすシーンもあり、タバコが単なる小道具ではなく、物語の重要な要素として機能していることがわかります。

物語の舞台となる精神病院の設定には、違和感を覚えました。患者たちの自由度が非常に高すぎる。ミュージカルの演出だったのかもしれませんが、まるで小さな街のよう広大な収容区域は柵に囲まれているものの、その中での行動の制限は驚くほど緩いように感じられます。

これはアメリカの刑務所システムを反映しているのかもしれません。日本と比較すると、アメリカの刑務所はより自由度が高いと聞きます。警察官を買収するような事案も時折耳にします。この設定が現実をどこまで反映しているのかは定かではありませんが、物語の展開に大きく関わってくる要素です。

全体的に暗い雰囲気の中にも、好きなシーンはいくつかあります。特に印象的だったのは、車の中から窓越しに外を眺めるシーンです。これは個人的には映画「女神の継承」のミンのシーンを彷彿とさせ、同じように心に残りました。こういった静謐な瞬間が、物語全体の緊張感を高める効果をもたらしています。

監督の意図:戒めとしての続編

トッド・フィリップス監督は、前作の影響を深く考慮した上で今回の続編を製作したのではないでしょうか。前作『ジョーカー』は単なる映画を超えて社会現象となり、世界中で影響を受けた人々が実際に事件を引き起こすという事態にまで発展しました。

日本も例外ではありませんでした。安倍晋三元首相銃撃事件の犯人は、ジョーカーに傾倒し感化されていたと言われています。犯人の境遇が映画のアーサーに近いところがあったことも指摘されています。

安倍晋三元首相の銃撃事件は、2022年7月8日に奈良市で発生しました。この事件の容疑者である山上徹也は、映画『ジョーカー』に強い関心を持っていたとされ、社会からの孤立や困窮といったテーマに共感していたと報じられています。彼のSNS投稿には、映画に登場するキャラクターがなぜ「ジョーカー」へと変貌し、何に絶望したのかを問い続ける内容が多く見られました。彼は自分の孤立や挫折を、映画の物語に反映させていたと考えられます。

また、京王線刺傷事件の犯人も、ジョーカーを模倣したかのような行動をとりました。

京王線刺傷事件は、2021年10月31日に東京都調布市を走行中の京王線特急電車内で発生した無差別刺傷事件です。犯人は映画『ジョーカー』のキャラクターに扮し、乗客をナイフで襲い、車内に火を放ちました。この事件により、男性1人が重体となり、他の乗客も負傷しました。犯人の服部恭太は、殺人未遂や放火の罪で懲役23年の判決を受けました。

映画の中では、ジョーカーに触発された暴徒が多数出現しますが、これは現実世界で起きた出来事を反映しているのです。監督は、この現実を踏まえて、「本当にジョーカーのようなことをしたらこうなってしまう」というメッセージを込めて本作を製作したのかもしれません。

賛否両論

今作で新たに導入されたミュージカル要素については、意見が分かれるところでしょう。個人的には、ほとんどのミュージカルシーンは不要だったのではないかと感じました。ただし、一曲だけ印象に残ったものがあります。(They Long To Be)Close To Youですが、この曲は昔から好きで、きっかけはなんかのCMで聴いたのが最初だったような。

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レディー・ガガの歌唱については、意図的に下手に歌っているように感じられました。これは物語の文脈や彼女の演じる人物像を考慮してのことかもしれません。

アーサーとリー(ハーレイ・クイン)の関係性の描写には物足りなさを感じました。二人の恋愛関係が急に始まったように感じられ、その発展の過程が十分に描かれていないように思います。また、リーの人物像があまり明確に見えてこないのも残念でした。

前作『ジョーカー』でアーサーの傍若無人な振る舞いに魅了された観客にとっては、本作は期待はずれだったかもしれません。実際、ネット上では否定的なレビューも見受けられます。

私自身も前作に衝撃を受け、同様のラディカルな要素を期待していた部分があります。前作では「やっちまえ、アーサー!」「そして踊れ!」と思わず声援を送りたくなるような場面があり、胸が空くようなカタルシスを感じました。特に、デ・ニーロ演じる司会者がやられるシーンや地下鉄でのシーンは緊張感があり、印象に残っています。

今作では、爆発が起こったシーンで「ここから怒涛の逆転劇が始まるのでは?」と期待しましたが、結局のところ劇的な展開はありませんでした。ほとんどの時間が裁判に費やされ、前作のような衝撃的な場面は少なかったように感じます。

ミュージカルシーンは妄想であることがわかっているため、感情移入しづらく、金銭に触れてくるような場面も少なかったです。前作から引き継がれたゴッサムシティの無機質で冷たい雰囲気は維持されていますが、その良さが希薄になってしまった印象です。

ラストシーン:意味深な結末

ラストシーンは印象的でした。何の変哲もない人物が何気なく殺されるという展開は、この映画全体のメッセージを凝縮しているようで興味深かったです。

監督が前作の影響を考慮し、一種の戒めとしてこの続編を製作したことは理解できます。しかし、その意図がやや中途半端に表現されてしまった感は否めません。「本当にジョーカーのようなことをしたらこうなってしまう」というメッセージをもっと全面に押し出し、その部分に振り切ってほしかったというのが率直な感想です。

アーサー本人がジョーカーの存在を否定するシーンは重要な意味を持っていたはずですが、そのインパクトも薄かったように感じます。ただし、私自身が満身創痍の状態で鑑賞したため、重要なシーンを見逃している可能性もあります。

期待を裏切られた続編だった

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、前作の衝撃的な成功を受けての続編としては、残念ながら期待に応えるものではありませんでした。「エスター」「ターミネーター」「SEARCH」など、2作目が1作目を超える素晴らしい続編となった例は少なくありません。しかし、今回の『ジョーカー』続編はそのような成功例にはなりませんでした。

前作の社会批判的な要素や主人公の過激な行動に魅了された観客にとっては、今作の方向性は物足りないものだったかもしれません。一方で、前作の影響を考慮し、より慎重なアプローチを取ったという点では評価できる部分もあります。

結局のところ、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は期待と現実の狭間で揺れる作品となりました。社会への影響を考慮しつつ、エンターテインメントとしての魅力を両立させることの難しさを感じさせる一作だったと言えるでしょう。

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