みなに幸あれ
『みなに幸あれ』は2024年公開の日本のホラー映画で、看護学生の孫が田舎の祖父母を訪れる物語です。再会を喜ぶ一方で、彼女は祖父母や近隣住民の言動に違和感を覚え、得体の知れない恐怖に直面します。この作品は「第1回日本ホラー映画大賞」を受賞した短編を基にした長編映画で、監督は下津優太、主演は古川琴音が務めています。
タイトル: みなに幸あれ
ジャンル: ホラー
上映時間: 89分
製作年: 2023年
配給: KADOKAWA
キャスト
主演は古川琴音で、彼女はホラー映画初主演となります。
共演者には松大航也、犬山良子、西田優史、吉村志保、橋本和雄、野瀬恵子、有福正志が名を連ねています。
なんといっても古川琴音の独特の雰囲気がこの不穏な映画に彩りを与える役割を果たしています。
古川琴音(ふるかわ ことね)は、1996年10月25日生まれの日本の女優で、神奈川県出身です。彼女はユマニテに所属し、映画『春』や『十二人の死にたい子どもたち』、『偶然と想像』などに出演しています。また、ドラマ『部活、好きじゃなきゃダメですか?』や『海のはじまり』にも出演し、幅広い役柄を演じています。彼女の演技は多くの人々に感動を与え、注目を集めています。
アンニュイな雰囲気を持つ女性で、『街の上で』、『幽遊白書』にも出演していました。幽遊白書でのぼたん役には相応しくないような気がしていたが実際見てみるとそうでもなくて、癖になる声や演技が意外に役にハマっていました。
印象的な演技と不安感を与えるキャラクター
まず、大竹しのぶさんに似ている女優、犬山良子さんの演技が非常に印象的でした。彼女の存在感は強烈で、その演技の怖さが観ている側に不安感を与えてくれました。
また、野瀬恵子さんのサイコパス的なキャラクターの演技も素晴らしく、作品全体に狂気の色を濃くしていました。彼女が見せる狂気の瞬間は、画面越しにも冷や汗が出るほどの迫力があり、ホラー映画における演技の重要さを、この作品は強く感じさせてくれます。
特に、斧を振り下ろすシーンが印象に残っています。「あれは絶対に間に合わないだろう」と思いながらも、登場人物がまるで瞬間移動したかのように回避する展開には驚かされました。現実感のない演出ですが、それが逆に不気味さを増していました。こうした非現実的な表現が、映画の独特の雰囲気を生んでいるのだと思います。
アリ・アスター作品との類似点
この作品を観ていて、アリ・アスター監督の影響を強く感じました。特に『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』のような作品に通じる要素が多く、これらの映画も「画」で語る部分が大きいです。直接的な恐怖というよりは、じわじわとした不安感がじりじりと迫ってくるような演出が、アスター作品に影響を受けていると感じました。この映画も同様に、視覚的要素が非常に強調されており、シーンごとの色彩やカメラワークが恐怖を煽る手法が印象的です。
しかし、この映画が一番印象的だったのは、その「気持ち悪さ」でした。いい意味で気持ち悪い映画なのですが、その気持ち悪さが常に意味を持っているわけではなく、ただ単に視覚的に不快なシーンを見せることに終始している部分も感じられました。特に、豚の真似をするシーンは、その典型です。「これは何の意味があるのか?」と疑問を感じながら観ていましたが、結局わからないままでした。ただ、意味がわからないことが逆に怖さを増すこともあります。未解決事件や理解不能な出来事は、しばしば人間に強い恐怖を与えます。しかし、この映画では意味がわからないだけで怖くないシーンも多く、豚の真似のシーンは確かに気持ち悪いものの、恐怖を感じることはありませんでした。
とはいえ、こうした「気持ち悪いシーン」を楽しむための映画として考えれば、ホラーファンには受け入れられる作品だと思います。いつもストーリー重視の映画ばかりではなく、たまにはこういったビジュアルや雰囲気を重視した作品も楽しめるものです。ただ、個人的にはもう少し凝ったプロットがあれば良かったと思いました。ストーリー自体がややありきたりで、つながりが不明瞭な部分も多く感じられました。特に後半は、説明が不足したまま進んでいくため、観客が置いてけぼりになるような印象を受けました。
それでも、この映画が監督のデビュー作であることを考えれば、非常に評価できる作品です。ビジュアルや演技の演出には強い意欲を感じますし、デビュー作としては挑戦的で見応えがありました。次回作では、もう少しストーリー面を強化してくれることを期待しています。例えば、おばあちゃんが壁やドアに何度もぶつかるシーンは、個人的にはゲーム『バイオハザード』を思い出してしまいましたが、こうしたホラー要素のアイデアがしっかりとストーリーに組み込まれていれば、より引き込まれる作品になったのではないかと思います。
ショッキングだったのは、出産シーンや老夫婦の営みを描いた場面です。あの年齢で出産が可能だということは、映画の舞台となる村の風習が人体にまで影響を与えているのではないかと思わせるものでした。しかし、そうした設定があまり明確に語られないため、謎が残る部分も多く、観終わった後にいろいろと考えさせられます。このブログを書いている今、なぜか頭痛がしてきたのも、この映画の持つ奇妙な力なのかもしれません。
監督の次回作に期待
興味深い点として、監督がYouTuberの柿沼キヨシさんに助言を求めたというエピソードがあります。柿沼さんのアドバイスがどれほど役に立ったのかは不明ですが、監督の反応を見る限りでは、完全な答えを得られたわけではないように見えました。
個人的には、スクリプトドクターの三宅隆太さんに相談してみても良かったのではないかと思いました。次回作に向けて、ストーリー面の強化があれば、さらに素晴らしい作品になることでしょう。
総じて、映画『みなに幸あれ』は、ビジュアルや演技の面で非常に注目に値する作品です。一方で、ストーリーのつながりや意味の不明瞭さが気になる部分もありましたが、ホラー映画としての「気持ち悪さ」をしっかりと表現しており、次回作への期待を高めるデビュー作だと言えます。
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